Column【日々前進5】「飛躍への狼煙」

2019年8月8日。UEFAヨーロッパリーグ本戦へと繋がる予選3次ラウンド第1戦のピッチに、浅野拓磨は立っていた。


新加入選手のお披露目にサポーターは大歓声を上げ、この11番のプレーに全員の注目が集まった。


しかし、浅野拓磨が立っていたその場所はイングランドでなければドイツでもない。そこはセルビアの首都ベオグラードにある、スタディオン・パルチザーナだ。


サンフレッチェ広島から欧州へと渡り3シーズンを過ごした浅野だが、ここまで欧州で満足のいくシーズンを送ることが出来なかった。特に昨シーズンのハノーファーでは怪我や契約上の問題で思うように試合に出場することもままならなかった。


そのような状況の中で届いたセルビアの名門パルチザン・ベオグラードからのオファー。欧州トップリーグには含まれないセルビアでのプレーを、勿論即決できたわけではない。


ただ、浅野の心の中にある「欧州で結果を出したい、欧州でたくさん点を取りたい」という強い想いが最後には彼の背中を押した。


そして迎えた8月8日の試合、ヨーロッパリーグ出場をかけるこの大事な一戦で加入間もない浅野は後半開始からピッチに立った。


後半67分、タイミング良い飛び出しで相手DFラインの裏に抜け出した浅野は、味方からパスを受けると持ち前のスピードで相手DFを引き離し、右足一閃。力強いシュートがゴールネットを大きく揺らした。


熱狂するサポーター、浅野に駆け寄るチームメイト達、スタジアムがこの日1番の盛り上がりを見せた。


新天地初戦でのゴール、監督の期待に応えるゴール、味方の信頼を掴むゴール。パルチザンでの今後のために貴重なゴールであったことは勿論だが、それ以上の意味がこのゴールにはあっただろう。


「どんな決断をしても、その決断が正解だったかどうかなんて分からない。自分にできるのはその決断の先で100%を尽くし続け、その決断が正解だったと思えるように努力することだけ」


浅野が何かを決めるときによく口にする言葉だ。


これまで多くの決断をし、たくさんの喜びも悔しさも感じてきた。欧州では結果を出すことができなかった。


そんな浅野が新たに選んだベオグラードの地。その初戦でのこのゴールは、浅野にとって飛躍への狼煙となったはずだ。


「ゴールを決められたのは嬉しいけど、もっと決められるチャンスがあった。コンディションも上げていかないといけない」


試合後にそう語ったように、このゴールにも浅野は決して満足していない。さらにさらにと貪欲に高みを目指し続けている。


この新たな地で浅野がこれからどんなシーズンを送っていくのか、期待せずにはいられない。